創作

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目を視る(創作2)

 その長い睫毛と澄んだ瞳から目を逸らすことはできなかった。

 その行為は「目を見て話を聴く」ではなく「話を聞き目を視る」であったように思う。


 学生街にある美味しいことで有名な中華料理屋で卓を囲みながら話を聞いていた。共通の友人に誘われて大学で課題のお手伝いを行った帰りである。

 その人は都内でも有数の進学校を出ているらしく聡明で、話し方にも人を惹きつけるオーラがあった。自分との歳の差がたった1歳とは思えなかった。

「家族が好きではないの」

 哲学的なことを小さい頃から考えるのが好きらしく、ステレオタイプに縛られてる家族に対しての不満を愚痴り、絶対に結婚なんてしないと高唱していた。

他にもいろいろ話していた気がする。話の展開がはやいせいかその目に見惚れてたせいかわからないが、内容もほとんど理解しきれないまま終わってしまった。

 

 ご飯を食べ終え店を出て駅へ向かう。風は冷たいが先ほど食べた回鍋肉が体を温めている。

 家までは、大学の最寄駅から2駅と乗り換えて1駅。友人は乗り換えずその人は乗り換えるのでたった1駅ではあるが2人の時間ができる。

 私は誰かと2人になる時間が無性に好きだった。仲の良い友人と他愛もない話をするのも好きだし、あんまり話したことない友人と友好関係を築こうとぎこちない会話を楽しむのも好きだった。

 乗り換えの駅で構内のエスカレーターを降りる間も無言の時間が続く。

 電車に乗り込むと、その人が興味あることとか院で何をしたいかとか色々話をした。

 その人と2人の時間はこの3日間のお手伝い期間しかなく今日が最後であるが、初日より2日目、2日目より3日目の今日と会話の量が増え心が落ち着いてきたように感じる。この徐々に関係が深まっていく感じがなんとも好きである。

 話をしている間はずっと目を視ていた。話の内容がどこか別の次元に飛ばさていく感覚がある。全く頭に入ってこない。

 その吸い込まれるような綺麗な瞳で幾人も虜にし生きてきたのだろう。


 楽しい時間というのは早くすぎるもので最寄駅に近づく。心拍数に反して電車の車輪の回転数が減っていく。

「お手伝いたくさん来てくれてありがとうね、めっちゃ助かったよ」

「それはよかったです!残りの作業も頑張ってください」

 「また機会があれば」そう言ってしまうともう二度と会えない気がしてどうしても言いたくなかった。

 その目を視て最後に挨拶をした。


 この時から私にとって「目を視る」行為は特別な意味を持つようになった。